初回相談を経て相手の課題を整理したら、次は提案のフェーズに入ります。ここで多くの人がつまずくのは、提案を「自分が伝えたいこと」を中心に作ってしまうからです。しかし、提案の真の目的は、相手が判断しやすい材料を提供し、決断のハードルを下げることです。
この章では、受注につながる「決めやすい提案」の作り方を解説します。提案は、結論、理由、具体案、進め方、成果物、スケジュール、費用、リスクと対策の順に整理することで、相手が迷わず判断できる形になります。見積では、範囲を明確にし、後で追加対応が膨らまないルールを組み込みます。クロージングでは、相手の不安を解消し、次のアクションと検討期限を自然に設定します。また、値下げ要求への対応として、単純な割引ではなく、範囲調整や条件変更で合意する型も身につけます。
提案の目的を理解する
提案とは、相手に自分のサービスを買ってもらうための営業資料だと考えられがちです。しかし、これは誤解です。提案の本当の目的は、相手が決断するための判断材料を提供することです。
相手は、あなたのサービスを受けるべきかどうか、予算をかける価値があるのか、他の選択肢と比べてどうなのか、といった疑問を抱えています。提案は、これらの疑問に答え、相手が安心して決断できる状態を作るものです。
したがって、提案では自分がどれだけ優れているかを主張するのではなく、相手の課題に対してどのような解決策を提供できるのか、それがどのような成果につながるのかを明確に示すことが重要です。そして、相手が判断しやすいように、情報を整理し、わかりやすく伝えることが求められます。
提案の基本構成
提案は、一定の構成に沿って作ることで、相手が理解しやすくなります。以下の順番で整理することが効果的です。
まず、結論から始めます。「今回の課題に対して、私は〇〇という方法で解決することを提案します」と、最初に結論を示すことで、相手は全体像を把握できます。多くの人は、背景や経緯から説明し始めますが、それでは相手は「結局、何を提案されているのか」がわかりません。
次に、理由を説明します。「なぜこの方法を提案するのか」を、相手の課題や状況と結びつけて説明します。「お話を伺った限り、御社の課題は〇〇であり、それを解決するには〇〇が必要だと考えました」といった形です。理由が明確であれば、相手は提案の妥当性を理解できます。
その後、具体案を示します。具体的に何をするのか、どのような方法で進めるのかを詳しく説明します。ここでは、抽象的な表現を避け、できるだけ具体的に記述します。たとえば、「サポートします」ではなく、「週に一回のミーティングで進捗を確認し、課題があれば即座に対応します」といった具合です。
次に、進め方を説明します。プロジェクトがどのように進むのか、各段階で何をするのかを示します。相手は、どのような流れで進むのかがわかることで、安心します。また、自分がどの段階で何をすればいいのかも理解できます。
成果物も明確にします。最終的に何が納品されるのか、どのような形で提供されるのかを具体的に示します。成果物のイメージが具体的であれば、相手は期待値を正しく持つことができます。
スケジュールも重要です。いつから始まり、いつ終わるのか、途中でどのようなマイルストーンがあるのかを示します。スケジュールが明確であれば、相手は他の業務との調整もしやすくなります。
費用は、提案の中で避けて通れない部分です。金額だけでなく、その内訳や、何に対する費用なのかを説明します。費用が明確であれば、相手は予算と照らし合わせて判断できます。
最後に、リスクと対策を示します。どのようなリスクが考えられるのか、それに対してどのような対策を講じるのかを説明することで、相手は「この人は現実的に考えている」と感じます。リスクを隠すのではなく、正直に伝え、それに対する対策を示すことが信頼を高めます。
相手が比較しなくても判断できる形にする
提案を作る際に意識すべきは、相手が他の選択肢と比較しなくても判断できる形にすることです。多くの人は、複数の業者から提案を受け、それを比較して決めます。しかし、比較するのは相手にとって負担です。
比較の負担を減らすためには、提案の中で選択肢を用意することが効果的です。たとえば、ベーシックプラン、スタンダードプラン、プレミアムプランといった複数のプランを提示し、それぞれのメリットとデメリットを説明します。これにより、相手は他の業者を探さずに、あなたの提案の中で選べます。
また、なぜこの提案があなたに合っているのかを説明することも有効です。「御社の場合、〇〇という状況なので、スタンダードプランが最適だと考えます」と推奨することで、相手は判断しやすくなります。ただし、押し付けにならないように、「もちろん、最終的にはご判断いただければと思います」と付け加えることも大切です。
提案書のビジュアルも重要
提案の内容が優れていても、読みにくい提案書では相手に伝わりません。提案書は、視覚的にわかりやすく作ることが重要です。
まず、文字ばかりの提案書は避けます。適度に図や表、グラフを使い、視覚的に情報を伝えます。たとえば、スケジュールはガントチャートで示す、費用の内訳は表で示す、といった工夫が有効です。
また、重要なポイントは強調します。太字や色を使って、相手に注目してほしい部分を目立たせます。ただし、強調しすぎると逆に読みにくくなるため、バランスが重要です。
提案書の長さも考慮します。長すぎると相手は読む気を失いますが、短すぎると情報が不足します。一般的には、五ページから十ページ程度が適切です。重要な情報は本文に含め、詳細な情報は付録として別ページにまとめることもできます。
見積の作り方と範囲の明確化
見積は、提案の中でも特に重要な部分です。見積が曖昧だと、後でトラブルになります。
見積を作る際には、まず範囲を明確にします。何が含まれ、何が含まれないのかを具体的に示します。たとえば、ウェブサイト制作の見積であれば、「トップページと下層ページ五ページまでの制作」「画像は三点まで提供」「修正は三回まで無料」「サーバーの設定は含まない」といった形で明記します。
次に、費用の内訳を示します。単に合計金額だけを示すのではなく、どの作業にいくらかかるのかを説明します。これにより、相手は費用の妥当性を判断できます。また、追加で発生する可能性のある費用も事前に示します。「修正が四回目以降は、一回につき〇〇円」といった形です。
支払い条件も明確にします。一括払いなのか、分割払いなのか、前金が必要なのか、納品後に支払うのかを示します。支払いのタイミングによって、相手のキャッシュフローへの影響も変わるため、柔軟に対応できることを示すことも有効です。
追加対応が膨らまないルールを入れる
見積を作る際に注意すべきは、後で追加対応が際限なく膨らまないようにすることです。範囲を明確にしていても、相手は「これも含まれるはず」と期待することがあります。
追加対応を防ぐためには、契約書や発注書に明確なルールを記載します。たとえば、「修正は三回まで無料。四回目以降は一回につき〇〇円」「追加ページの制作は一ページにつき〇〇円」といった形です。
また、追加対応が発生する前に、必ず確認を取ることをルール化します。「追加の依頼をいただいた場合、事前に見積をお出しし、ご承認をいただいてから作業を開始します」と伝えることで、後で「こんなに費用がかかるとは思わなかった」というトラブルを防げます。
クロージングの基本
提案を提示したら、次はクロージングです。クロージングとは、相手に決断を促すプロセスです。ただし、強引に決断を迫るのではなく、相手が安心して決断できる環境を整えることが重要です。
クロージングの第一歩は、相手の反応を確認することです。提案を説明した後、「いかがでしょうか」「ご不明な点はありますか」と尋ねます。相手が何を感じているのか、どこに不安を抱えているのかを把握します。
相手が不安を口にしたら、それを一つずつ解消します。「予算が心配です」と言われたら、支払い条件を調整したり、プランを変更したりする提案をします。「本当にうまくいくのか不安です」と言われたら、過去の事例や実績を示し、安心してもらいます。
不安が解消されたら、次のアクションを提案します。「それでは、まず契約書を作成しますので、ご確認いただけますか」「来週から着手できるように準備を進めますが、よろしいでしょうか」といった形で、具体的な次のステップを示します。
検討期限を自然に設定する
クロージングで重要なのは、検討期限を設定することです。期限がないと、相手は「とりあえず保留にしよう」と考え、そのままフェードアウトしてしまうことが多いです。
検討期限を設定する際には、相手に押し付けるのではなく、自然な理由を添えます。たとえば、「来月から別の案件が入る予定なので、今月中にご判断いただければ、すぐに着手できます」「この価格は今月末までの期間限定です」といった形です。
また、検討期限を過ぎても連絡がない場合のフォローアップも計画します。期限の数日前に、「そろそろ期限が近づいていますが、ご検討状況はいかがでしょうか」と確認のメールを送ることで、相手は思い出し、決断を促されます。
相手の不安を解消する技術
クロージングの場面で、相手はさまざまな不安を抱えています。この不安を解消することが、受注への鍵です。
よくある不安の一つは、「本当にこの人に任せて大丈夫か」というものです。この不安を解消するには、実績や事例を示します。「過去に同じような案件を〇件手がけ、すべてのクライアントに満足いただいています」「こちらが実際の成果物です」といった形で、具体的な証拠を提示します。
もう一つの不安は、「予算が妥当かどうか」です。この不安を解消するには、費用の根拠を説明します。「この金額には、〇〇と〇〇が含まれており、市場相場と比較しても適正です」と伝えることで、相手は納得しやすくなります。
また、「失敗したらどうしよう」という不安もあります。この不安を解消するには、リスクへの対策を示します。「万が一、期待した成果が得られなかった場合は、〇〇を無償で提供します」「進行中に問題が発生した場合は、即座に対応します」といった保証を提示することで、相手は安心します。
値下げ要求への対応
提案を提示すると、値下げを要求されることがあります。この場面で、多くの人は「断ると受注を失うのではないか」と不安になり、簡単に値下げに応じてしまいます。しかし、安易な値下げは、自分の価値を下げ、長期的には持続可能なビジネスを築けなくなります。
値下げ要求への基本的な対応は、割引ではなく、範囲調整や条件変更で合意することです。
たとえば、相手が「予算が厳しいので、もう少し安くできませんか」と言ったとします。この場合、まず相手の予算を確認します。「差し支えなければ、ご予算の範囲を教えていただけますか」と尋ねることで、どれくらいの調整が必要なのかを把握します。
次に、提供内容を調整する提案をします。「ご予算に合わせるために、修正回数を三回から二回に減らす、または、ページ数を五ページから三ページに減らすことが可能です」といった形です。これにより、価格は下がるが、提供する価値もそれに応じて調整されるため、妥当性が保たれます。
また、条件変更で対応することもできます。「一括払いではなく、分割払いにすることで、月々の負担を軽減できます」「納期を延ばすことで、急ぎの作業がなくなり、費用を抑えられます」といった形です。
どうしても値下げが必要な場合は、何か別の価値を得ることを交渉します。「今回は特別に割引させていただきますが、その代わりに、事例として御社の名前を使わせていただけませんか」「次回の依頼も確約していただけるなら、割引を検討します」といった形です。
値下げを断る勇気
値下げ要求に対して、断ることも時には必要です。特に、自分の提供する価値に見合わない値下げを求められた場合、断ることが長期的には正しい選択です。
値下げを断る際には、丁寧に理由を説明します。「この価格には、〇〇と〇〇が含まれており、これ以上の値下げは品質を保証できなくなります」「他のクライアントとのバランスを考えると、特定の方だけに割引を提供することは難しいです」といった形です。
断った結果、受注を失うこともあります。しかし、適正な価格で受注できない案件を無理に受けても、自分が疲弊し、他の案件に影響が出ます。また、一度値下げに応じると、次回も値下げを期待されるようになります。
値下げを断る勇気を持つことは、自分の価値を守ることでもあります。そして、適正な価格を理解してくれる相手と長期的な関係を築くことが、持続可能なビジネスにつながります。
クロージング後のフォローアップ
クロージングの場で受注が決まった場合も、決まらなかった場合も、フォローアップが重要です。
受注が決まった場合は、感謝のメールを送り、次のステップを確認します。「本日はご契約いただき、ありがとうございました。来週から着手しますので、準備を進めます」といった形です。また、契約書や発注書などの必要な書類を速やかに送ります。
受注が決まらなかった場合も、感謝と今後の可能性を伝えます。「今回はご縁がありませんでしたが、お時間をいただき、ありがとうございました。また機会がありましたら、ぜひお声がけください」といった形です。このとき、無理に理由を聞かないことも大切です。相手が自発的に理由を教えてくれた場合は、それを今後の改善に活かします。
また、数か月後に再度連絡を取ることも有効です。「以前お話しさせていただいた者ですが、その後いかがでしょうか」と確認することで、状況が変わっていれば新たな機会が生まれます。
提案・見積・クロージングの型を作る
提案、見積、クロージングは、毎回ゼロから考えるのではなく、型を作ることで効率化できます。
提案書のテンプレートを作り、案件ごとにカスタマイズすることで、作成時間を大幅に短縮できます。また、見積のフォーマットを決めておくことで、抜け漏れを防げます。
クロージングのトークも、いくつかのパターンを用意しておきます。「ご不明な点はありますか」「次のステップとして、〇〇を提案します」「検討期限は〇月〇日でいかがでしょうか」といったフレーズをストックしておくことで、スムーズに進められます。
型を作ることで、毎回の提案やクロージングが安定し、受注率も向上します。そして、型を改善し続けることで、さらに精度が高まります。提案、見積、クロージングを型化し、淡々と実践することが、安定した受注を生み出す基盤となります。