第3章 仕事で力を発揮できる環境を見極める

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自己理解はなぜキャリアの土台なのか

キャリアデザインにおいて、自己理解は最も重要な土台です。どれだけ魅力的な仕事があっても、それが自分に合っていなければ長続きしません。どれだけ条件の良い会社があっても、自分の価値観と合わなければ満足感は得られません。自己理解とは、自分という人間の特性を正確に把握し、どのような環境で力を発揮できるのかを明確にする作業なのです。

多くの人が自己分析と聞いて思い浮かべるのは、性格診断や適性テストかもしれません。確かにそうしたツールは参考になりますが、キャリアデザインにおける自己理解はもっと実践的なものです。重要なのは、抽象的な性格の特徴を知ることではなく、仕事という具体的な場面で自分がどう機能するかを理解することです。どんな業務で成果を出せるのか、どんな環境でモチベーションが上がるのか、どんな状況で疲弊してしまうのか。こうした実務に直結する理解こそが、キャリアの選択を支える軸になります。

自己理解が不十分なまま仕事を選ぶと、ミスマッチが起こります。給料が高いからという理由だけで選んだ仕事が、実は自分の苦手な業務ばかりだったということがあります。周囲から評価されている仕事でも、自分にとってはストレスが大きくて続けられないこともあります。反対に、世間的な評価は低くても、自分には非常に合っていて充実感を得られる仕事もあります。こうしたミスマッチを避けるためには、まず自分を正確に知ることが不可欠なのです。

また、自己理解は一度で完結するものではありません。経験を積むことで見えてくることもありますし、年齢やライフステージによって価値観が変わることもあります。最初はぼんやりとしか分からなかったことが、実際に働く中で明確になっていきます。だからこそ、定期的に自分と向き合い、今の自分はどうなのかを確認し続けることが重要です。この章では、その基盤となる考え方と方法を提示していきます。

価値観という判断の軸を明確にする

キャリアにおける価値観とは、仕事において何を最も大切にしたいのかという優先順位のことです。人はそれぞれ異なる価値観を持っており、それによって仕事の選び方や働き方が変わってきます。自分の価値観を明確にすることは、迷ったときの判断基準となり、長期的な満足度を左右する重要な要素です。

まず理解すべきは、価値観に正解はないということです。高い収入を得ることを最優先する人もいれば、社会貢献を重視する人もいます。安定を求める人もいれば、挑戦や成長を求める人もいます。自由な働き方を大切にする人もいれば、組織の一員として働くことに意義を感じる人もいます。どれが優れているということはなく、自分にとって何が大切かということが重要なのです。

価値観を探るためには、自分がどんなときに満足感を感じるかを振り返ることが有効です。たとえば、プロジェクトが成功して大きな成果を出したとき、自分はどこに喜びを感じたでしょうか。高い報酬を得られたことでしょうか。チームで協力できたことでしょうか。新しい挑戦ができたことでしょうか。難しい問題を解決できたことでしょうか。顧客に感謝されたことでしょうか。その喜びの源泉が、あなたの価値観を示しています。

反対に、不満を感じる場面からも価値観が見えてきます。給料は悪くないのに満足できないとすれば、それは他の何かが欠けているということです。仕事の内容にやりがいを感じられないのか、働く環境が合わないのか、成長実感がないのか。何が欠けていると感じるかを分析することで、自分が本当に求めているものが分かります。

価値観は複数あることも理解しておく必要があります。収入も大切だし、やりがいも大切、ワークライフバランスも大切。多くの人がそう感じるでしょう。問題は、それらすべてを同時に満たす仕事はほとんど存在しないということです。だからこそ、優先順位をつけることが重要になります。どうしても譲れないものは何か、ある程度妥協できるものは何か。この優先順位が明確であれば、選択を迫られたときに判断しやすくなります。

ライフステージによって価値観が変わることも自然なことです。20代では成長とチャレンジを最優先していた人が、30代で家族ができると安定やワークライフバランスを重視するようになることもあります。40代で子育てが一段落すると、再び挑戦を求めることもあります。こうした変化を受け入れ、その時々で自分の価値観を見直すことが、長期的なキャリアの満足度を高めます。

価値観を明確にする際は、他人の目や社会的な評価に引きずられないことも大切です。世間では高く評価されている働き方でも、自分には合わないこともあります。友人が充実していると感じる仕事でも、自分にとってはそうでないかもしれません。他人の価値観ではなく、自分自身の価値観に正直になることが、本当の満足につながるのです。

強みを仕事の文脈で捉え直す

強みとは、他の人と比べて得意なことや、自然に発揮できる能力のことです。しかし、多くの人は自分の強みを正確に把握できていません。謙遜して過小評価している場合もあれば、自分にとって当たり前すぎて強みだと気づいていない場合もあります。キャリアを考える上では、自分の強みを仕事の文脈で具体的に理解することが重要です。

強みには大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、特定のスキルや知識です。プログラミングができる、英語が話せる、財務分析ができる、デザインができるといった、習得した技術的な能力です。これらは比較的分かりやすく、資格や実績として示すこともできます。しかし、スキルだけが強みではありません。

もう一つは、ポータブルスキルと呼ばれる汎用的な能力です。コミュニケーション力、課題解決力、企画力、調整力、分析力、リーダーシップなど、業種や職種を超えて活用できる力です。これらは目に見えにくいため、自分では認識しづらいのですが、実はキャリアの選択肢を広げる上で非常に重要な要素です。

自分の強みを見つける最も確実な方法は、過去の成功体験を振り返ることです。これまでの仕事や活動の中で、評価された場面や成果を出せた場面を思い出してください。そのとき、あなたは何をしていましたか。企画を立てていましたか、調整をしていましたか、分析をしていましたか、人を巻き込んでいましたか。成功の背後にある自分の行動パターンを分析することで、強みが見えてきます。

他人からの評価も重要な手がかりです。周囲から「あなたは○○が得意だよね」と言われることがあれば、それはあなたの強みである可能性が高いです。自分では当たり前にできることが、実は他の人にとっては難しいことだったという場合があります。同僚や上司、友人などに、自分のどんなところが良いと思うか聞いてみるのも有効です。

ただし、強みは単に得意なことという意味ではありません。キャリアにおいて重要なのは、その強みが仕事でどう活かせるかということです。たとえば、人と話すのが得意だという強みがあるとします。これは営業で活かせるかもしれませんが、カウンセリングや人材育成、イベント企画など、様々な場面で活用できる可能性があります。自分の強みを抽象化して捉えることで、応用の幅が広がります。

また、強みは伸ばすことができるという認識も大切です。今は得意ではなくても、経験を積むことで強みに変えていくこともできます。興味がある分野であれば、学習や実践を通じて能力を高めていくことが可能です。反対に、使わない強みは錆びついていきます。定期的に活用する機会を作り、磨き続けることも重要です。

自分の強みを活かせる環境を選ぶことは、キャリアの満足度を大きく左右します。どれだけ条件が良くても、自分の強みが発揮できない環境では成果も出ませんし、充実感も得られません。自分は何が得意で、それをどの場面で活かせるのかを明確にすることが、適切なキャリア選択の基盤となるのです。

苦手を知ることの重要性

キャリアを考える上で、強みと同じくらい重要なのが苦手なことを知ることです。多くの人は苦手を隠そうとしたり、克服しなければならないと考えたりしますが、キャリアデザインにおいては、苦手を正直に認識し、それを避けられる環境を選ぶことも立派な戦略です。

苦手には二つの側面があります。一つは、能力的に苦手なことです。細かい作業が苦手、数字が苦手、人前で話すのが苦手など、どうしても得意になれない分野があります。もちろん訓練によってある程度は改善できますが、それには大きな労力がかかります。苦手なことを克服しようと努力し続けるよりも、得意なことを伸ばすほうが効率的な場合も多いのです。

もう一つは、環境的な苦手です。能力的にはできるのだけれど、その環境や状況が自分に合わないというケースです。たとえば、一人で黙々と作業するのが苦手な人もいれば、反対に大勢の中で働くのが苦手な人もいます。変化の激しい環境が苦手な人もいれば、単調な作業が苦手な人もいます。これは性格や気質によるもので、無理に合わせようとすると大きなストレスになります。

苦手な環境で働き続けることは、想像以上に消耗します。毎日がストレスフルで、どれだけ頑張っても成果が出にくく、自己肯定感も下がっていきます。心身の健康にも影響が出ることがあります。だからこそ、自分がどんな環境で疲弊するのかを知り、そうした環境をできるだけ避けることが重要です。

苦手を知るためには、過去のしんどかった経験を振り返ることが有効です。仕事で辛かったとき、何が辛かったのでしょうか。業務内容そのものでしょうか、人間関係でしょうか、働き方でしょうか、評価の仕方でしょうか。具体的に何がストレスだったのかを言語化することで、自分の苦手なパターンが見えてきます。

注意すべきは、一度の経験だけで判断しないことです。たとえば、ある職場で営業が辛かったとしても、それが営業という仕事自体が苦手なのか、その会社の営業スタイルが合わなかったのか、その時期の自分の状況が良くなかったのかを見極める必要があります。複数の経験から共通するパターンを見つけることで、より正確な理解ができます。

また、苦手は絶対的なものではなく、状況によって変わることもあります。若いときは単調な作業が苦痛だったのに、年齢を重ねると安定した業務のほうが心地よく感じることもあります。人前で話すのが苦手だったのに、経験を積むことで平気になることもあります。苦手だと思っていたことが、実は単に経験不足だっただけということもあるのです。

苦手を知ることは、自分を責めるためではありません。むしろ、自分に合った環境を選ぶための大切な情報です。苦手なことを無理に克服しようとするのではなく、苦手を避けながら強みを活かせる場所を見つけることが、長期的なキャリアの成功と幸福につながります。

どういう環境なら力が出る人かを言語化する

ここまで価値観、強み、苦手について見てきました。これらを統合して考えることで、自分がどのような環境で力を発揮できるのかが明確になります。これこそが、キャリアにおける自己理解の最終的なゴールです。

環境という言葉には、様々な要素が含まれます。業種や職種といった仕事の内容だけでなく、企業文化、組織の大きさ、働き方、評価制度、人間関係のスタイルなども環境の一部です。同じ営業という仕事でも、大企業の既存顧客向け営業と、スタートアップの新規開拓営業では、求められる能力も働き方も大きく異なります。どちらが良い悪いではなく、どちらが自分に合っているかということです。

自分に合う環境を言語化するためには、これまでの経験を横断的に見ることが有効です。仕事だけでなく、学生時代の部活動やアルバイト、ボランティア、趣味の活動なども含めて考えてみてください。充実していた経験に共通する環境的な特徴は何でしょうか。少人数のチームだったでしょうか、明確な目標があったでしょうか、自由度が高かったでしょうか、役割分担がはっきりしていたでしょうか。

反対に、うまくいかなかった経験の共通点も見てみましょう。曖昧な指示が多かったのか、評価基準が不明確だったのか、競争が激しすぎたのか、一人で抱える部分が多すぎたのか。こうした環境的な要因が、自分のパフォーマンスに大きく影響していることに気づくはずです。

具体的な言語化の例を挙げると、「私は、少人数のチームで明確なゴールに向かって協力する環境で力を発揮できる。変化が激しく、試行錯誤しながら新しいことに挑戦できる場が合っている。反対に、大人数の組織で定型的な業務を繰り返す環境や、個人で黙々と作業し続ける状況では力が出にくい」といった形です。これくらい具体的に言語化できれば、企業選びや職種選びの明確な指針になります。

また、今の自分に最適な環境と、将来目指したい環境が異なることもあります。今は学ぶことを優先して、教育制度が充実した大企業が合っているかもしれません。しかし将来的には、裁量を持って働けるベンチャーや独立を目指すこともあるでしょう。今の自分と将来の自分の両方を見据えながら、段階的に環境を選んでいくという視点も重要です。

環境の理解には、実際に体験することが最も効果的です。転職する前にインターンや副業で試してみる、社内の異動で別の部署を経験してみるなど、小さく試す機会を作ることで、自分に合う環境がより明確になります。頭で考えるだけでは分からないことが、実際に身を置いてみると見えてくるのです。

自分に合う環境を言語化できれば、キャリアの選択は格段にしやすくなります。求人情報を見るとき、企業説明を聞くとき、面接を受けるとき、常にこの言語化された自己理解と照らし合わせることができます。これが合っているか合っていないかを判断する軸があることで、周囲の意見や表面的な条件に惑わされることなく、自分にとって本当に良い選択ができるようになるのです。

過去の経験から学ぶワーク

ここまで自己理解の重要性と方法について述べてきました。では実際に、自分自身の経験を振り返って具体的な気づきを得るためのワークに取り組んでみましょう。このワークは、あなたの価値観、強み、苦手な環境を明確にするための実践的な作業です。

まず、これまでの仕事や活動を思い出してください。正社員としての仕事だけでなく、アルバイト、インターン、学生時代のプロジェクト、ボランティア活動、趣味の活動なども含めて考えます。その中から、楽しかった瞬間を3つ書き出してください。どんな場面で、何をしているときに、楽しいと感じましたか。できるだけ具体的に、状況を思い出しながら書いてみましょう。

次に、評価された瞬間を3つ書き出します。上司や同僚、顧客、先生、仲間などから褒められたり、認められたり、感謝されたりした場面です。どんな行動や成果が評価されたのでしょうか。そのとき自分は何をしていましたか。どんな能力を発揮していましたか。これも具体的に振り返って記録してください。

そして、しんどかった瞬間を3つ書き出します。辛かった、苦しかった、続けるのが嫌だったと感じた場面です。何がしんどかったのでしょうか。業務内容でしょうか、人間関係でしょうか、環境でしょうか、プレッシャーでしょうか。なぜそれがしんどいと感じたのかも含めて、正直に言葉にしてみてください。

書き出した9つの経験を眺めてみましょう。そこにはあなたという人間の特性が表れています。楽しかった瞬間からは、あなたの価値観や興味が見えてきます。評価された瞬間からは、あなたの強みや得意なことが分かります。しんどかった瞬間からは、あなたが苦手な環境や避けたほうがいい状況が明らかになります。

それぞれの経験に共通点はありませんか。楽しかった瞬間は、いずれも人と協力する場面だったかもしれません。評価された瞬間は、すべて課題解決に関わるものだったかもしれません。しんどかった瞬間は、いずれも自分一人で抱え込んでいた状況だったかもしれません。こうした共通点を見つけることで、自分の特性のパターンが浮かび上がってきます。

このワークに正解はありません。大切なのは、自分の経験を素直に振り返り、そこから自分なりの気づきを得ることです。完璧に分析する必要はありませんし、きれいにまとめる必要もありません。まずは材料を集めること。そこから少しずつ、自分という人間の輪郭が見えてくるはずです。

この気づきは、次の章で扱う選択肢を探すとき、そして最終的にキャリアの判断をするときの重要な判断材料になります。自己理解は、すべてのキャリアデザインの出発点です。ここで得た理解を大切に持ち続けながら、次のステップへと進んでいきましょう。

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