第2章 キャリアデザインの5つのステップ

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キャリアデザインは本当にシンプルである

キャリアデザインと聞くと、難しい理論を学んだり、複雑な分析をしたりしなければならないと思われがちです。専門家やコンサルタントに相談しなければ自分ではできないのではないか、膨大な時間をかけて綿密な計画を立てなければならないのではないか。そうした心理的なハードルが、多くの人をキャリアデザインから遠ざけています。

しかし実際には、キャリアデザインの本質は極めてシンプルです。それは、自分を知り、選択肢を知り、判断し、行動し、見直すという5つのステップを繰り返すだけなのです。特別な才能も必要なければ、高度な知識も必要ありません。誰もが日常生活の中で無意識に行っている思考プロセスを、キャリアという文脈で意識的に実践するだけです。

たとえば、週末にどこに出かけるかを決めるときのことを考えてみてください。まず自分が何をしたいのかを考えます。リラックスしたいのか、刺激が欲しいのか、誰かと過ごしたいのか。次に選択肢を調べます。映画館、カフェ、公園、美術館など。そして状況を踏まえて判断します。天気はどうか、予算はどうか、一緒に行く人の希望は何か。決めたら実際に行動し、終わった後で楽しかったかどうかを振り返ります。これと同じプロセスが、キャリアデザインにも当てはまるのです。

多くの人がキャリアで迷うのは、このプロセスのどこかで止まってしまうからです。自分が何を求めているのか分からないまま選択肢を探している人、選択肢は知っているのに判断できずに立ち止まっている人、判断はしたのに行動に移せない人。それぞれが異なる場所で躓いています。逆に言えば、今自分がどこで止まっているのかが分かれば、そこを突破するための具体的な手立てを考えることができるのです。

この章では、キャリアデザインの全体像を一つの地図として提示します。この地図さえ手元にあれば、どんなに迷ったときでも立ち戻る場所が分かります。完璧に進む必要はありません。行きつ戻りつしながら、自分のペースで進んでいけばいいのです。大切なのは、全体の流れを理解し、今自分がどこにいるのかを把握することです。

ステップ1 自己理解という出発点

キャリアデザインの最初のステップは、自分自身を深く理解することです。これは単なる自己分析ではなく、自分という人間の輪郭を明確にする作業といえます。何が好きで何が嫌いなのか、何が得意で何が苦手なのか、どんなときにエネルギーが湧いてどんなときに疲れるのか。こうした基本的な情報を整理することから、すべてが始まります。

自己理解において重要なのは、表面的な答えではなく本質的な答えを見つけることです。たとえば「営業が得意です」という答えは表面的です。なぜ営業が得意なのか。人と話すのが好きだからなのか、数字で成果が見えるのが好きだからなのか、課題解決が好きだからなのか。その理由によって、営業以外にも向いている仕事があるかもしれません。得意なことの背後にある本質を理解することが、応用の幅を広げます。

価値観の理解も欠かせません。仕事において何を最も大切にしたいのか。収入なのか、やりがいなのか、安定なのか、成長なのか、自由なのか、社会貢献なのか。これらは状況によって変化することもありますが、自分の中での優先順位を明確にしておくことで、選択を迫られたときの判断軸になります。複数の選択肢があって迷ったとき、この判断軸があれば決断がしやすくなるのです。

過去の経験を振り返ることも有効です。これまでの仕事や学生時代の活動の中で、充実感を感じた瞬間はいつだったでしょうか。逆に、苦痛だったのはどんなときでしたか。成功体験と失敗体験の両方から、自分の特性が見えてきます。特に、自分では気づいていない強みは、他人から評価された経験の中に隠れていることが多くあります。

ライフスタイルの希望も自己理解の一部です。どこに住みたいのか、どんな生活リズムが心地よいのか、家族との時間をどれくらい確保したいのか。これらは仕事選びに直結する要素です。いくら給料が高くても、長時間通勤や頻繁な出張があると続けられないかもしれません。リモートワークができるかどうかが重要な人もいれば、オフィスで人と関わりながら働きたい人もいます。

自己理解は一度やって終わりではありません。年齢や環境の変化とともに、自分の価値観や関心も変わっていきます。定期的に自分と向き合い、今の自分がどうなのかを確認することが大切です。ただし、完璧な自己理解を目指す必要はありません。ある程度の輪郭が見えたら、次のステップに進むことができます。行動しながら理解を深めていくというアプローチも有効なのです。

ステップ2 選択肢理解という視野の拡大

自分のことが分かっても、世の中にどんな選択肢があるのかを知らなければ、適切な判断はできません。選択肢理解とは、自分の知らない世界に目を向け、可能性を広げる作業です。多くの人は、自分が知っている範囲の中でしか選択肢を考えません。しかし世の中には、想像以上に多様な働き方や職種が存在しているのです。

まず、業界の理解を深めることが重要です。自分が今いる業界以外にも、様々な産業があります。成長している業界もあれば、縮小している業界もあります。安定している業界もあれば、変化の激しい業界もあります。それぞれの業界の特徴や将来性を知ることで、自分のキャリアの可能性が見えてきます。特に異業種への転職を考える場合、業界研究は欠かせません。

職種の多様性も理解しておく必要があります。営業、企画、マーケティング、人事、経理、エンジニア、デザイナー、コンサルタントなど、職種は無数にあります。さらに同じ職種名でも、企業によって仕事内容は大きく異なります。営業といっても、既存顧客への深耕営業もあれば、新規開拓の営業もあります。法人向けもあれば個人向けもあります。こうした細かな違いを理解することが、適切な選択につながります。

働き方の選択肢も広がっています。正社員として働くだけでなく、契約社員、派遣社員、フリーランス、業務委託など、様々な雇用形態があります。副業やパラレルワークという選択もあります。起業して自分でビジネスを始める道もあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、自分のライフステージや価値観に合わせて選ぶことができます。

企業規模による違いも見逃せません。大企業には安定性や福利厚生の充実がある一方で、意思決定のスピードが遅かったり、個人の裁量が限られていたりします。中小企業やベンチャーは不安定さはありますが、幅広い業務経験ができたり、経営に近い位置で働けたりします。スタートアップでは急成長のチャンスがある反面、リスクも大きくなります。どの環境が自分に合うかは、自己理解と照らし合わせて考える必要があります。

学び直しの選択肢も重要です。今のスキルを活かしながら新しい分野に挑戦するために、どんな学習方法があるのか。オンライン講座、スクール、資格取得、大学院など、様々な手段があります。それぞれにかかる時間やコストも異なります。働きながら学べるものもあれば、集中して取り組む必要があるものもあります。

選択肢を知るためには、積極的に情報収集することが欠かせません。転職サイトを見る、業界ニュースを読む、セミナーに参加する、実際にその仕事をしている人に話を聞くなど、方法は様々です。特に実際に働いている人の話は、表面的な情報では分からないリアルな実態を知ることができます。友人や知人のネットワークを活用することも有効です。

ただし、選択肢を探すことに夢中になりすぎて、情報収集ばかりになってしまうことには注意が必要です。完璧な情報を集めようとすれば、いくら時間があっても足りません。ある程度の選択肢が見えたら、次のステップに進むことが大切です。行動してみて初めて分かることもたくさんあるからです。

ステップ3 判断という決断の瞬間

自分を知り、選択肢を知ったら、次は判断するステップです。複数の選択肢の中から、どの道を選ぶのか。この決断が、その後のキャリアの方向性を決定づけます。判断は簡単ではありません。どの選択肢にもメリットとデメリットがあり、完璧な答えは存在しないからです。

判断において最も重要なのは、自分の価値観に基づいて決めることです。他人がどう思うか、世間的にどう見られるかではなく、自分にとって何が大切なのかを基準にします。前のステップで明確にした自己理解が、ここで活きてきます。収入を重視するのか、やりがいを重視するのか、ワークライフバランスを重視するのか。自分の価値観に照らし合わせて、どの選択肢が最も自分らしいかを考えます。

現実的な制約も考慮する必要があります。家族の状況、経済的な事情、年齢、健康状態など、様々な制約が存在します。理想だけを追い求めても、実現できなければ意味がありません。制約の中でできることは何かを考え、現実的に実行可能な選択をすることが求められます。ただし、制約を言い訳にして挑戦を避けることとは違います。制約を認識した上で、その中でベストな選択をするということです。

リスクとリターンのバランスも判断材料になります。新しい挑戦には常にリスクが伴います。転職すれば環境が変わり、慣れるまでのストレスがあります。収入が下がる可能性もあります。しかし、それによって得られるものがリスクを上回るのであれば、挑戦する価値があります。逆に、リスクに見合うリターンがないと判断すれば、今の環境に留まることも一つの選択です。

タイミングも重要な要素です。同じ選択でも、タイミングによって結果は大きく変わります。市場の状況、自分のライフステージ、会社の状況など、様々な要因がタイミングに影響します。今すぐ動くべきなのか、もう少し準備してから動くべきなのか。これを見極めることも判断の一部です。焦って動いても、準備不足で失敗するかもしれません。かといって、慎重になりすぎてチャンスを逃すこともあります。

判断には勇気が必要です。どんなに考えても、未来のことは誰にも分かりません。100パーセント正しい選択というものは存在せず、選んだ後に後悔することもあるかもしれません。しかし、判断を先延ばしにすることもまた、一つの選択です。何も決めないことで時間だけが過ぎていき、状況が悪化することもあります。不完全な情報の中でも決断する勇気を持つことが、キャリアを前に進めるために必要なのです。

完璧を求めすぎないことも大切です。70パーセントの確信が持てたら動いてみる、という姿勢が有効です。残りの30パーセントは、行動しながら埋めていけばいいのです。実際に動いてみて、違うと思ったら軌道修正すればいい。そのための次のステップが、行動と見直しなのです。

ステップ4 行動という現実への第一歩

判断をしても、行動しなければ何も変わりません。行動こそが、キャリアデザインを現実のものにする唯一の方法です。しかし、多くの人が行動に移せずに止まってしまいます。考えることと行動することの間には、大きな壁があるのです。

行動を阻む最大の要因は、完璧を求める心理です。もっと準備してから、もっと勉強してから、もっと自信がついてから。そう思って先延ばしにしてしまいます。しかし、完璧な準備というものは存在しません。どれだけ準備しても、実際にやってみなければ分からないことばかりです。むしろ、小さく始めて経験から学ぶほうが、効率的に成長できることが多いのです。

行動は大きくなくていいという認識も重要です。いきなり転職する必要はありません。まずは情報収集から始める、興味のある分野のセミナーに参加してみる、副業で試してみる、社内で異動希望を出してみる。こうした小さな行動の積み重ねが、やがて大きな変化につながります。小さな行動は失敗してもダメージが小さいため、試行錯誤がしやすいというメリットもあります。

具体的な行動計画を立てることも有効です。漠然と「転職したい」と思っているだけでは、何から手をつければいいか分かりません。履歴書を書く、転職サイトに登録する、エージェントに相談する、企業研究をするなど、具体的なタスクに分解します。そして、いつまでに何をするのかを決めます。期限を設けることで、行動への心理的なハードルが下がります。

環境を整えることも行動を後押しします。周囲に宣言する、同じ目標を持つ仲間を見つける、メンターを持つなど、自分を動かす仕組みを作るのです。一人で抱え込むと挫折しやすくなりますが、誰かと共有することで継続しやすくなります。また、時間や場所を固定して習慣化することも効果的です。毎週土曜日の朝は必ず転職活動をする、と決めれば、行動が定着しやすくなります。

失敗を恐れないマインドセットも必要です。行動すれば必ず失敗します。うまくいかないこともたくさんあるでしょう。しかし、失敗から学ぶことで次の行動が改善されます。失敗は成長の糧であり、行動しなければ得られない貴重な経験なのです。大切なのは、失敗したら諦めるのではなく、そこから何を学ぶかです。

行動を続けるためには、モチベーションの管理も重要です。最初は熱意があっても、時間が経つと熱が冷めてしまうことがあります。定期的に自分の目標を見直し、なぜそれを目指しているのかを思い出すことが大切です。小さな成功を積み重ね、自分を褒めることも継続の秘訣です。完璧でなくても、昨日より一歩でも前に進んでいれば、それは十分に価値があります。

ステップ5 見直しという継続的な改善

行動を起こしたら、その結果を振り返り、見直すことが欠かせません。見直しとは、単に反省することではなく、次のアクションをより良くするための学びを得る作業です。このステップがあることで、キャリアデザインは一度きりの計画ではなく、継続的に改善されていくプロセスになります。

見直しでは、まず何が起きたのかを客観的に把握します。行動した結果、どうなったのか。思った通りだったこと、予想外だったこと、うまくいったこと、うまくいかなかったこと。感情を交えずに事実を整理します。この客観的な把握が、適切な学びにつながります。自分の解釈や感情だけで判断すると、偏った学びになってしまう危険があります。

次に、なぜそうなったのかを分析します。うまくいったのであれば、何が成功要因だったのか。準備が良かったのか、タイミングが良かったのか、相性が良かったのか。うまくいかなかったのであれば、何が原因だったのか。自分の準備不足だったのか、選択肢の見極めが甘かったのか、外部環境の変化だったのか。原因を特定することで、次に活かせる教訓が得られます。

そして、次に何をすべきかを考えます。このまま同じ方向で進めるのか、軌道修正が必要なのか、一度立ち止まって再考すべきなのか。見直しの結果を踏まえて、次のアクションプランを立てます。場合によっては、最初の自己理解や選択肢理解に戻ることもあります。実際に行動してみて初めて、自分の本当の価値観や適性が分かることもあるからです。

定期的に見直しの時間を設けることが重要です。日々の忙しさに追われていると、立ち止まって振り返ることを忘れがちです。月に一度、あるいは四半期に一度でもいいので、自分のキャリアの状況を見直す時間を作ります。今の自分は、自分が描いた方向に進んでいるのか。価値観や目標に変化はないか。新しく見えてきた選択肢はないか。こうした問いを定期的に自分に投げかけることが、キャリアを常に最適化することにつながります。

環境の変化にも敏感でいる必要があります。業界のトレンド、市場の動き、社会の変化など、外部環境は常に変動しています。自分の計画が時代に合っているのかを確認し、必要に応じて調整していきます。昨日まで正しかった選択が、今日は正しくなくなることもあります。柔軟に対応できる姿勢を持つことが、長期的なキャリアの成功につながるのです。

見直しを通じて、キャリアデザインは螺旋を描くように進化していきます。同じステップを繰り返しているように見えても、一周するごとに理解が深まり、選択の質が上がっていきます。完璧な計画を一度作ることよりも、小さな改善を繰り返していくことのほうが、結果的に大きな成果につながるのです。

地図としてのキャリアデザイン

ここまで述べてきた5つのステップは、キャリアを進む上での地図のようなものです。どこかで迷ったり、行き詰まったりしたときに、この地図を見れば自分がどこにいるのか、次にどこに進めばいいのかが分かります。完璧に進む必要はありません。行きつ戻りつしながら、自分のペースで進んでいけばいいのです。

重要なのは、この全体像を理解しておくことです。多くの人がキャリアで悩むのは、今自分がどのステップにいるのか分からないからです。もやもやしているのは自己理解が足りないからなのか、選択肢を知らないからなのか、判断できないからなのか、行動に移せないからなのか。これが分かれば、そこを重点的に取り組めばいいのです。

また、この地図は人生の様々な場面で使えます。転職を考えるときだけでなく、社内での異動を考えるとき、副業を始めるとき、学び直しを検討するとき、働き方を変えたいとき。どんな場面でも、このプロセスを辿ることで適切な選択ができるようになります。一度身につければ、一生使える思考の枠組みなのです。

今の自分の立ち位置を確認するワーク

ここまでキャリアデザインの全体像を見てきました。では、今のあなたはこの5つのステップのどこにいるでしょうか。それを明確にするためのワークに取り組んでみましょう。

まず、自己理解、選択肢理解、判断、行動、見直しという5つのステップを見て、自分が今どこで止まっているのかを選んでください。一つだけでなく、複数のステップで止まっている場合もあるでしょう。それで構いません。正直に、今の自分の状態を選んでみてください。

次に、なぜそこで止まっているのか、その理由を書き出してみましょう。自己理解で止まっているのであれば、何が分からないのか。自分の強みが分からないのか、何がしたいのか分からないのか。選択肢理解で止まっているのであれば、情報が足りないのか、どう探せばいいか分からないのか。判断で止まっているのであれば、何が決断を妨げているのか。リスクが怖いのか、失敗が怖いのか。行動で止まっているのであれば、何が行動を阻んでいるのか。時間がないのか、勇気が出ないのか。見直しで止まっているのであれば、振り返る習慣がないのか、何を見直せばいいか分からないのか。

この理由を明確にすることが、次に進むための重要なヒントになります。問題が分かれば、解決策も見えてきます。もし自分で理由がよく分からない場合は、それも正直に書いてみてください。分からないということが分かることも、大きな一歩なのです。

このワークを通じて、自分のキャリアデザインにおける現在地が明確になります。そして、次の章以降で、それぞれのステップをどう進めていけばいいのかを、具体的に学んでいくことができるのです。あなたのキャリアを前に進めるための地図は、すでに手の中にあります。

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