経営戦略の全体像とドメイン
経営戦略とは、企業がどんな分野で、どのような価値を提供しながら、どの方向に進んでいくかを決める長期的な計画のことです。目先の売上だけではなく、数年先を見据えて「自分たちは何者で、どのような役割を社会の中で担うのか」を明確にします。ここで重要になるのが「ドメイン」という考え方です。ドメインとは、企業がどの事業領域で勝負するのかという「活動範囲」を示す言葉で、どんな顧客に、どのような価値を、どのような手段で提供するのかを整理したものです。例えば「地域の子育て世帯向けに、日常の買い物を便利にする宅配サービスを提供する」といった表現がドメインにあたります。ドメインをはっきりさせることで、取り組むべき事業と、やらないことの線引きができ、経営資源を集中させやすくなります。
競争優位と成長戦略
経営戦略では、他の企業と比べてどこが強いのか、つまり「競争優位」をどう作るかが大きなテーマになります。競争優位とは、他社と比べてお客様にとって魅力的な部分があり、それを長く続けられる状態のことです。例えば同じような価格でも、サポートが丁寧で安心して使えるサービスであれば、それは大きな競争優位になります。また、企業が長期的に成長していくためには「成長戦略」も必要です。成長戦略には、今の市場でシェアを増やす市場浸透、新しい市場を開拓する市場開拓、新しい製品を投入する新製品開発、まったく新しい分野に進出する多角化などの考え方があります。状況に応じて、どの方向で成長を目指すのかを選ぶことが経営戦略の重要な役割です。
市場分析とポーターの競争戦略
経営戦略を考えるときには、市場の大きさや成長性、お客様の特徴などを調べる「市場分析」が欠かせません。市場分析では、どのくらいのお客様がいて、どのくらい売れそうか、今後増えそうなのかを考えます。同時に、競合企業の動きも重要です。ここでよく登場するのが、マイケル・ポーターの競争戦略です。ポーターは基本となる競争戦略として、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略という三つを示しました。コストリーダーシップ戦略は、効率的な生産や物流によってコストを下げ、低価格で勝負する戦略です。差別化戦略は、品質、デザイン、サービスなどを工夫し、他社にはない魅力で選ばれることを目指す戦略です。集中戦略は、特定の市場や顧客層に的を絞り、その分野で高い評価を得る戦略です。自社の強みと市場環境に合わせて、どの戦略を軸にするかを考えることが大切です。
マーケティングのSTPと4P
マーケティングは、お客様にとって価値のある商品やサービスを作り、それを届けるための考え方です。ITパスポートでは特に、STPと呼ばれる考え方と、4Pと呼ばれる要素がよく出てきます。STPとは、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字を取ったものです。セグメンテーションは、市場を年齢や生活スタイルなどの条件でグループに分けることです。ターゲティングは、その中からどのグループに絞って売るかを決めることです。ポジショニングは、そのグループの中で自社の商品をどのような位置づけにするかを決めることです。4Pは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の四つの要素です。どんな商品を、どのくらいの値段で、どこで売り、どのように知らせるかを組み合わせて、お客様にとって魅力的な提案を作ります。
顧客満足とブランド戦略
企業が長く選ばれ続けるためには、一度買ってもらうだけでなく、「また買いたい」と思ってもらうことが重要です。そこで大切になるのが「顧客満足(CS)」です。顧客満足とは、お客様が「期待していたよりも良かった」「安心して使える」と感じる状態のことで、リピート購入や口コミによる広がりにつながります。また、企業や商品に対する信頼やイメージを高める「ブランド戦略」も重要です。ブランドとは、名前やロゴだけでなく、「この会社なら安心できる」「この商品なら間違いない」といった印象のまとまりです。ブランド戦略では、品質、デザイン、広告などを通じて、一貫したイメージを作ることが求められます。
財務諸表と損益計算書
経営戦略を考えるうえで、企業のお金の流れを表す資料を読めることも重要です。その代表が財務諸表です。財務諸表には、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などがあります。損益計算書は、ある期間にどれだけ売上があり、どれだけ費用がかかり、最終的にどれだけ利益が残ったかをまとめた表です。売上高から売上原価を引いたものが売上総利益で、ここから販売費や一般管理費などを引いて営業利益が求められます。損益計算書を読むことで、企業が本業でどれくらい稼げているかが分かります。貸借対照表は、資産、負債、純資産の状態を示しますが、ITパスポートでは「何を表す表か」という基本を押さえておくことが大切です。
収益性と安全性の指標(売上総利益率と流動比率)
企業の状態を数字で判断するために、「指標」と呼ばれる計算が使われます。代表的なものに収益性の指標と安全性の指標があります。売上総利益率は、売上総利益を売上高で割ったもので、売上に対してどれくらい利益が出ているかを示します。例えば、売上高が100で売上総利益が30なら、売上総利益率は30%です。この値が高いほど、付加価値の高い商品やサービスを提供できていると考えられます。一方、流動比率は、流動資産を流動負債で割って求める指標で、短期的な支払いにどれだけ余裕があるかを示します。流動比率が高いほど、近い将来の支払いに耐えられる力があるとみなされます。
人材・組織とモチベーション理論
企業の成果は、人材と組織のあり方に大きく影響されます。そこで重要になるのがモチベーション理論です。マズローの欲求段階説は、人間の欲求を五つの段階に分け、下の段階が満たされると次の段階を求めるという考え方です。生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求という順序で説明されます。ハーズバーグの動機づけ・衛生理論は、仕事のやる気を高める要因(動機づけ要因)と、不満を引き起こさないための要因(衛生要因)を区別して考えます。動機づけ要因には達成感ややりがい、衛生要因には給与や労働条件などが含まれます。このような理論を理解しておくと、社員のやる気を高める仕組み作りに役立ちます。
生産管理と在庫管理
生産管理は、商品やサービスを無駄なく、安定して提供するための管理活動です。必要なときに、必要な量を、必要な品質で用意できるように、材料の手配や作業の手順、設備の稼働などを調整します。在庫管理は、その中でも特に、原材料や製品をどのくらいの量で持っておくかを考える活動です。在庫が多すぎると保管コストが増え、少なすぎると品切れが起こり、お客様に迷惑がかかります。適切な在庫量を保つことが、生産効率と顧客満足の両方につながります。
品質管理、PDCA、QC七つ道具、IE
品質管理は、お客様に満足してもらえる品質を安定して保つための考え方です。品質を偶然に任せるのではなく、計画的に管理する仕組みを作ります。このときよく使われる考え方がPDCAサイクルです。PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の流れを繰り返すことで、仕事の質を高めていく仕組みです。また、品質管理でデータを分析するときに役立つのが「QC七つ道具」と呼ばれる手法です。パレート図、特性要因図、チェックシート、ヒストグラム、管理図、散布図、グラフなどが含まれ、問題の原因を探したり、ばらつきを調べたりするために使われます。IE(インダストリアル・エンジニアリング)は、人の動作や作業の流れを分析して、無駄を減らし、仕事を効率よく進めるための考え方です。時間の計測や作業手順の見直しなどを通じて、生産性を高めます。
サステナビリティ、CSR、ESG、サーキュラーエコノミー
最近の経営戦略では、利益を出すことだけでなく、地球環境や社会への影響も重視されています。サステナビリティとは、将来の世代のことも考えながら、環境や社会に負担をかけすぎない形で活動を続けることです。CSR(企業の社会的責任)は、企業が法令遵守だけでなく、地域社会や環境への配慮、適切な情報開示などを通じて、社会の一員として責任ある行動を取ることを意味します。ESGは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったもので、企業の長期的な価値を見る指標として投資家などが重視しています。サーキュラーエコノミーは、資源を使い捨てにせず、再利用やリサイクルを通じて循環させる経済の考え方です。これらの考え方を経営戦略に取り入れることで、企業は社会からの信頼を高め、長く活動を続けることができます。